投資詐欺、特に仮想通貨を悪用した詐欺の被害に遭った多くの方が、まず直面するのが「もうお金は戻らない」という現実です。警察や金融機関に相談しても、「海外の口座で匿名性が高い」「仮想通貨の追跡は困難」といった理由で、捜査の進展が見込めず、諦めてしまうケースが少なくありません。
しかし、この認識は誤りです。「返金は無理」という言葉は、多くの場合、技術的な知見と法的対応の専門性が不足していることからくる見解に過ぎません。
私たちブロックチェーン調査の専門家は、その資金が最終的にどこに流れ着いたのかを、デジタルな証拠をもって解明できます。この技術的な裏付けがあれば、弁護士と連携し、資産凍結や損害賠償請求という法的な手段で資産を取り戻すことは十分に可能です。
本記事では、「返金は無理」と諦める前に、被害者がいますぐ準備すべき「法的証拠」と、資産回復を実現するための具体的な「調査・回収の流れ」を、調査会社の視点から徹底的に解説します。あなたの資産を取り戻すための道筋は、必ず存在します。
なぜ「無理」と言われるのか?— 詐欺師の隠蔽手口と法的な壁

詐欺師が利用する二重の隠蔽構造
投資詐欺師が「返金が困難」な状況を作り出すために利用するのは、主に以下の二重の隠蔽構造です。
資金の多層的マネーロンダリング(資金洗浄)
被害者から送金された資金は、数分から数時間のうちに、数十・数百というウォレットアドレスを巡り、細かく分散・混合されます。これがマネーロンダリング(資金洗浄)です。この複雑な経路をたどることで、資金の出所や最終的な所有者を判別しにくくします。特に、匿名性を高めることを謳うミキシングサービスの利用は、追跡の難易度を格段に引き上げます。
国境を越えた資産移動と法的管轄の壁
資金は、国内の取引所を経由した後、瞬時に規制の緩い海外の仮想通貨取引所や、規制外の分散型金融(DeFi)プロトコルに移動します。日本の警察や裁判所が、直接海外の取引所やプロトコル運営者に対して情報開示や資産凍結を強制することは極めて難しく、ここに「法的管轄の壁」が生じます。
被害者が直面する「証拠不十分」の壁
警察への相談や弁護士への依頼時に、被害者が以下の点でつまづくと、「詐欺立件が難しい」「証拠不十分」と判断されてしまいます。
- デジタル証拠の欠落: 詐欺師とのチャット履歴や偽サイトのURLなど、重要なデジタル証拠を保存しきれていない。
- 送金情報の不備: 送金先のウォレットアドレスやトランザクションIDなど、ブロックチェーン上の追跡に必要な情報が不正確である。
- 技術的な説明の限界: 被害者自身が、複雑な仮想通貨の仕組みや資金の流れを、捜査機関や弁護士に正確に説明できない。
いますぐ準備すべき「法的証拠」の完全リスト

資産回復に向けた最初の一歩は、証拠を完璧に保全することです。デジタル証拠は一度消されると復元が困難なため、発見次第、以下のリストに基づき記録・保全してください。
ブロックチェーン追跡に必須の「送金情報」
この情報がなければ、調査を開始することすらできません。最も重要性が高い証拠です。
- ウォレットアドレス(送金先): 詐欺師が指定した仮想通貨の受け取りアドレスをすべて記録してください。
- トランザクションID(TxID): 送金が完了したことを証明する、一意の識別子(ハッシュ値)です。これを基に追跡が開始されます。
- 送金日時と金額: いつ、いくらを、どの仮想通貨(BTC, ETH, USDTなど)で送金したかの記録。
- 利用した取引所・ウォレット: あなたが送金時に利用した取引所(Coincheck, bitFlyerなど)や個人ウォレット(MetaMaskなど)の履歴画面のスクリーンショット。
犯人特定に繋がる「コミュニケーション履歴」
詐欺師の言葉遣い、行動、そして身元情報の手がかりを掴むための証拠です。
- SNS/チャットの全記録: 騙された当初のDM、LINE、Telegram、マッチングアプリ内のメッセージなど、最初の接触から最後のやり取りまで、すべてを時系列で保存してください。
- (保存方法: テキストエクスポート機能や、連続したスクリーンショットが望ましい)
- 偽サイトのURL/スクリーンショット: 誘導された偽の投資プラットフォームや取引所のURLを記録し、ログイン後の残高画面、ログイン前の画面をすべてキャプチャしてください。
- 犯人のアカウント情報: 犯人が使っていたSNSのアカウント名、プロフィール画像、ID、電話番号、メールアドレスなど、すべての情報を記録してください。
法的証拠としての「公的記録」
事態を深刻に受け止め、法的・公的な行動を取った事実を記録します。
- 警察への被害相談記録: 警察署のサイバー犯罪相談窓口への相談日時、対応した警察官の名前、受付番号があればその番号。
- 国民生活センターへの相談記録: 相談した日時と、どのようなアドバイスを受けたかの記録。
証拠保全のテクニック:デジタルデータの「真正性」を確保する
法的証拠として利用する場合、単なるスクリーンショットでは「改ざん可能」と見なされる可能性があります。
- URLを含むキャプチャ: ブラウザのURLバーが明確に映るようにキャプチャしてください。
- 連続的な保存: チャット履歴は、途中で途切れることなく連続して保存し、データが網羅的であることを証明できるようにします。
- タイムスタンプの記録: 証拠を取得した日時を記録しておくことで、「いつそのデータが存在したか」という真正性を確保できます。
ブロックチェーン調査(フォレンジック)の具体的な流れ

証拠が揃ったら、次は専門家による技術的な解明に移ります。ブロックチェーン調査は、資産回復に向けた決定的な「設計図」を作成する工程です。
ステップ1:初期ヒアリングとトランザクション確定
- 目的: 被害者がどのタイミングで、どのウォレットアドレスに、いくら送金したかを正確に確定させる。
- 調査会社: 被害者が提供した送金履歴(TxID)に基づき、送金がブロックチェーン上に正しく記録されているか、二重送金などのミスがないかを検証します。
ステップ2:資金追跡(マネーロンダリングの経路特定)
- 目的: 被害資金が、最初の送金先からどのように分散・混合されたかを可視化する。
- 調査会社: 専門の解析ツール(Chainalysis, CipherTraceなど)を使用し、資金移動をグラフ化(トランザクション・グラフィカル分析)。数十〜数百にも及ぶアドレスの流れを分析し、「資金洗浄のパターン」を特定します。この段階で、複数の被害資金が集まっているクラスタ(犯人グループのウォレット群)が見つかることがあります。
ステップ3:出口(現金化・最終着地点)の特定
- 目的: 資金が最終的に流れ着いた場所、すなわち犯人が現金化を試みる仮想通貨取引所(CEX)を特定する。
- 調査会社: クラスタリング分析の結果と、インターネット上の情報(OSINT)を連携させ、資金が特定の取引所に入金された事実を証明します。この取引所が、資産凍結を要請する最重要ターゲットとなります。
ステップ4:証拠資料の作成と弁護士への連携
- 目的: 追跡結果を、法廷や取引所への要請で利用できる「法的証拠」として整備する。
- 調査会社: 追跡結果を専門用語を避けつつ、誰でも理解できるレポートとしてまとめます。このレポートには、資金の流れの図解、犯人グループが使用したと推定されるウォレット群、最終着地点の取引所名などが明確に記載されます。この資料が、弁護士による法的手続きの強力な武器となります。
法的回収を実現する「弁護士との連携」と資産凍結

調査会社による技術的な裏付けが完了した後は、弁護士が法的な手続きを一手に引き受けます。この連携こそが、資産回復の成功率を決定づけます。
資産の緊急凍結要請(資金保全)
調査会社から提供された証拠に基づき、弁護士は資金が着金した取引所(CEX)に対して、直ちに資産の緊急凍結(または差し止め)を要請します。
- 取引所が応じる理由: 仮想通貨取引所は、国際的なマネーロンダリング対策(AML/CFT)の規制下にあります。明確な不正資金の移動経路の証拠が示されれば、コンプライアンス遵守のため、多くの場合、資産凍結の要請に応じます。
- 凍結の重要性: 凍結に成功すれば、犯人はその資金を動かすことができなくなり、資産が保全された状態となります。
取引所への「発信者情報開示請求」
凍結された資産の所有者が誰であるかを特定するため、弁護士は取引所に対し、該当ウォレットアドレスの所有者情報(氏名、住所など)の開示を法的に請求します。
- 犯人特定の突破口: 取引所は、口座開設時に本人確認(KYC)を行っているため、この情報が開示されれば、犯人の身元が判明し、次のステップである損害賠償請求が可能となります。
損害賠償請求と回収
犯人の身元が特定された後、弁護士は犯人に対して民事訴訟を起こすか、示談交渉により損害賠償請求を行います。
- 訴訟の優位性: 凍結された資産という強力な担保があるため、訴訟は非常に有利に進められます。裁判所から資産の返還を命じる判決を得ることで、凍結された仮想通貨を法定通貨に換金し、被害者へ返還する手続きが実行されます。
- 返金への道筋: このプロセスこそが、「返金は無理」を覆し、合法的に資産を回収する唯一の道筋となります。
今すぐ動くべき理由— 時間との戦い

投資詐欺における最大の敵は「時間」です。時間が経過するほど、資産回収の成功率は低下します。
証拠の消滅リスク
詐欺師は、被害者からの通報や連絡を察知すると、使用していたSNSアカウントを削除したり、偽サイトを閉鎖したりするなど、証拠の隠滅を図ります。デジタル証拠は非常に脆弱であり、被害を認識したらその場で保全しなければ、二度と手に入らない可能性があります。
資金洗浄の進行による追跡の難化
資金は秒単位で移動し、複雑な資金洗浄のプロセスに送金されます。追跡開始が遅れるほど、資金が辿り着くウォレットの数が指数関数的に増え、解析ツールのコストや時間が増大し、最終的な出口の特定が困難になります。
取引所による資産の強制換金リスク
海外取引所によっては、一定期間凍結された資産を、管理手数料名目で強制的に換金・没収するリスクもゼロではありません。凍結に成功した後も、迅速に法的手続きを進め、返還命令を勝ち取る必要があります。
希望を捨てずに、専門の力を活用する

投資詐欺被害は、金銭的な損失だけでなく、精神的なダメージも甚大です。しかし、「もう無理だ」と諦めてしまうことが、詐欺師の思う壺です。
あなたには、資産を取り戻すための「証拠」を準備する力があります。
そして、私たち専門家には、その証拠を基に「資産の流れ」を解明し、「法的な回収」に繋げる技術とノウハウがあります。
まずは、第2章で解説した法的証拠を漏れなく収集し、ブロックチェーン調査と法的回収に強い専門家(調査会社および弁護士)にご相談ください。あなたの勇気ある一歩が、「返金は無理」という言葉を覆し、資産回復の成功へと繋がります。

